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東京高等裁判所 昭和57年(行ケ)264号 判決

事実及び理由

一  原告主張の請求の原因一ないし三の各事実(特許庁における手続の経緯、本願考案の要旨及び審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。

二  そこで、審決取消事由の存否について検討する。

1  周知技術(燃料タンクを合成樹脂製としたガスライター)の認定の誤りの主張(請求の原因四の2)について

前記審決の理由の要点によれば、審決は、ガスライターの燃料タンクを合成樹脂で成形している点について、それが本願考案の明細書にも従来技術として記載されている周知の技術である旨を認定しているにすぎず、燃焼弁装置の上端をタンクの上側に、その下端をタンクの底部に取り付けたガスライターの燃料タンクを合成樹脂で成形したものが周知であるとしたものではないことが明らかである。

そして、成立について争いのない甲第二号証(本願考案の実用新案出願公告公報)によれば、本願考案の明細書の考案の詳細な説明中には、「従来燃焼弁の下方に直線状に連結してこれを燃料タンクの底部外方から操作していたガスライターの流量調整ネジは、上下両端部を燃料タンクの上側と底部に固定して上半部に燃焼弁装置を配設した筒体の下半部に昇降自在に設置していたものであるが、合成樹脂製の燃料タンクに取り付けた場合着火時に伝わる熱またはガス圧等によつて生じる合成樹脂製燃料タンクと金属製の筒体との膨脹または収縮率に差があるため、筒体の取付個所と接する燃料タンクの一部を破損するという欠点があつた、本案はこのような欠点を除去するために考案したものであつて………」との記載(同号証第二欄第四ないし第一五行)があることが認められる。右の記載は、燃焼弁装置を配設した筒体の上下両端部を燃料タンクの上側と底部に固定した構造を備えたガスライターで燃料タンクを合成樹脂製としたものが以前から存在したという趣旨であるとみることはできないが、燃焼弁装置について右のような構造をとらないガスライターで燃料タンクを合成樹脂製としたものについては、これが本願考案の実用新案登録出願前から普通に存在していたことを前提として説明しているものとみることができるから、これを本願考案の明細書に従来技術として記載されているとした審決の認定を誤りとすることはできない。

のみならず、いずれもその成立について争いのない乙第一ないし第三号証によれば、ガスライターで燃料タンクを合成樹脂で成形したものは本願考案の実用新案登録出願前より周知のものであつたことが明らかである。

したがつて、この点に関する審決の認定に誤りはなく、原告の右主張は、審決の認定の趣旨の誤解に基づくものであつて、採用できない。

2  本願考案の解決した技術的課題の看過の主張(請求の原因四の3)について

(一)  熱膨脹係数の相違に基づく課題及びその解決手段に関する主張(請求の原因四の3の(一))について

(1) 前記甲第二号証の記載に口頭弁論の全趣旨を合わせ考えれば、本願考案の実用新案登録出願当時、金属製の燃焼弁装置関係部材の上下端を燃料タンクの上側及び底部に固定する構造のガスライターについて、その燃料タンクを合成樹脂で成形するについては、原告主張(請求の原因四の1の(一)の(1))のように、タンクの破損あるいはガス漏れの発生を防止しなければならないという技術的課題があつたものと認められる。

そして、右技術的課題と前記本願考案の要旨とを対比すれば、本願考案は、右技術的課題解決の手段として、「流量調整ネジ15の下部を…燃料タンク2の底部に形成した燃料タンク2と一体の短筒状口部14に上下動自在に遊挿して下端をタンク2の外底部に臨ませ、流量調整ネジ15と短筒状口部14との間に密封手段17を介在させて両者の間隙を密封」するという構成を採用したものであることが明らかである。

(2) 一方、成立について争いのない甲第四号証によれば、引用例には、燃料タンクの材質について直接の記載はないが、「燃料タンク1は、モールドにより別々に形成された二つの部分に構成され、端部と端部が溶接又は膠づけにより行われる周辺結合7により結合される。」(第二頁第五七ないし第六〇行)との記載があることが認められるところ、モールドにより形成されるとの右記載によれば、引用例の燃料タンクは合成樹脂製か金属製であるものと推認するに難くない。

また、右甲第四号証によれば、引用例には、燃料タンクと燃焼弁装置との関連について、「回動密閉物8は、壁1bに形成された穴8aから成り、かつ、その中で桿5の円筒状環5a又は桿5′の5a′が滑動し、少なくとも一つの環状密封部材9、好ましくは二つの環状密封部材が、環5a又は5a′に隣接して前記穴8a内に配置されている。」との記載(第二頁第八ないし第一五行)並びに「固定部分と可動部分との相対的位置は、タンクの一時的又は永久的な形くずれの結果、思いもかけない変位を受けることがなく、したがつて、ガス流出量の調節はもつぱらこれらの相対的位置に依存し、非常に安定性がある。」との記載(第二頁第七〇ないし第七六行)があることが認められるところ、これらの記載及び同号証記載の第一図(別紙図面<2>)を合わせ考えれば、引用例のガスライターにおいては、ガス流出量の調節のための螺合桿5の下部を燃料タンクの底壁1bに形成された筒状口部に上下動自在に遊挿し、螺合桿の下端は燃料タンクの外底部に臨ませ、螺合桿は筒状口部に設けられた穴8aに配置された環状密封部材9を介して筒状口部に保持され、螺合桿と筒状口部との間隙を密封状態としているものであることが明らかである。

(3) そこで、本願考案における前記(1)認定の構成と引用例における右(2)認定の構成とを対比すると、本願考案における右構成は、要するに、燃焼弁装置関係部材の材質と燃料タンクの材質との熱膨脹係数が異なるために生ずる夕ンクの破損等を防止するためのものであつて、燃料タンクが合成樹脂製であることにより特に格別の構成をとつたものとみることはできないところ、引用例においても、前認定のとおり、その燃料タンクは、合成樹脂又は金属をモールドして形成したもので、その螺合桿とは材質が異なり、熱膨脹係数も相違するものとみられるが、引用例における前記構成によれば、「固定部分と可動部分との相対的位置」が「タンクの一時的………な形くずれの結果、思いもかけない変位を受けることがな」いと同時に、逆に、右熱膨脹係数の相違に基づく燃料タンクの形くずれないし破損及びこれに伴うガス漏れ等も十分防止されているものとみることができるから、本願考案と引用例記載のものとの右各構成の間に、前記技術的課題解決の面において、特段の差異があるとすることはできない。

(4) してみると、本願考案が、燃料タンクを合成樹脂製としたことによる技術的課題を引用例記載のものにはみられない格別の手段により解決したとする原告の主張は採用できず、この点に関して審決に違法があるとすることはできない。

(二)熱伝導率の相違に基づく課題及びその解決手段に関する主張(請求の原因四の3の(二))について

(1) 原告は、本願考案の解決すべき技術的課題として、気化潜熱を補う必要があつたところ、本願考案は、これを、「流量調整ネジ15を中実の金属製棒状体をもつて構成する」とともに、「流量調整ネジ15の上端と流量調整部材10の下部に配された座金9との間に綿芯12の中央部を配置して流量調整ネジ15で押圧自在となし、綿芯の両端を燃料タンク2の底部に向つて垂下させた」構成をとることによつて解決したものである旨主張する(請求の原因四の1の(一)及び(二)の各(1))。

(2) しかしながら、流量調整ネジを中実体とし、液化ガスを導くのに綿芯を用い、流量調整部材の下部に座金を配置するという前記の関連構成が、どのような理由に基づいて気化潜熱を十分に補いうるのか、との点については、前記甲第二号証(本願考案の実用新案出願公告公報)又は成立について争いのない甲第三号証(右出願公告後の手続補正書)中にもなんら説明されておらず、また、客観的事実として右の関連構成が気化潜熱を補いうるものであることを認めるに足る資料もない。

もつとも、流量調整ネジ15が中実の金属製棒状体であることにより、同規模の中空のものよりも、理論的には、多量の気化潜熱を与えることができることにより収縮等の影響が少ないということはできるであろうし、前記甲第三号証中にも同趣旨の記載があるが、本願考案におけるように中実の流量調整ネジを用いた場合と前記甲第四号証によつて中空の金属製部材であると認められる引用例の螺合桿を用いた場合とで、後者の場合は、気化潜熱が不足し、炎が不安定であるのに対し、前者の場合は、その不足を補うことができ、炎が安定するというほどの差異が客観的に存在するとみる合理的根拠はなく、かつ、この点を明らかにする証拠もないから、右の気化潜熱の補充及び炎の安定化の点を本願考案における格別の作用効果とすることはできない。

(3) また、前記甲第四号証により、引用例で中空の金属製螺合桿を用いているのは螺合桿の内部に液化ガス燃料の供給通路を設けるため特に中空にしたものであることが認められ、いずれもその成立について争いのない甲第五、六号証によれば一般にガスライターの流量調整ネジは中実の金属製棒状体によつて構成されるものであることが知られていたと認められることを考えれば、引用例記載のものにおける中空の金属製部材(螺合桿)を中実の金属製棒状体である本願考案の流量調整ネジとすることに、格別の困難性があるとすることはできない。

(4) そして、前示のとおり、原告主張の関連構成ないし流量調整ネジを中実にしたことにより本願考案がその技術的課題解決のための格別の作用効果を有するものということができず、前記甲第五、六号証により、液化ガスを導くのに綿芯を用いること及び流量調整部材の下部に座金を配することが本願考案の実用新案登録出願前より周知であつたと認められる以上、審決摘示の相違点<1>に関し、各周知例の存在を理由に、本願考案が引用例からきわめて容易になしうるもので、その効果も予測しうる範囲内のものであるとした審決の判断に誤りはなく、これを違法とする原告の主張は理由がないものといわなければならない。

三  よつて、審決の取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。

〔編註〕 本願考案の要旨は左のとおりである。

合成樹脂で成形した燃料タンク2の上部にノズル7を備えた燃焼弁1を定着し、該燃焼弁1の下部に流量調整部材10を配設するとともに、該流量調整部材10を押圧、弛緩しうる流量調整ネジ15を燃焼弁1の下部内面に上下動自在に螺挿し、該流量調整ネジ15の下部を前記燃料タンク2の底部に形成した燃料タンク2と一体の短筒状口部14に上下動自在に遊挿して下端をタンク2の外底部に臨ませ、流量調整ネジ15と短筒状口部14との間に密封手段17を介在させて両者の間隙を密封し、かつ流量調整ネジ15を中実の金属製棒状体をもつて構成し、該流量調整ネジ15の上端と前記流量調整部材10の下部に配された座金9との間に綿芯12の中央部を配置して流量調整ネジ15で押圧自在となし、綿芯の両端を燃料タンク2の底部に向つて垂下させたことを特徴とする合成樹脂製燃料タンクを有するガスライターの流量調整ネジの取付構造

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